Islamic stateから中東へ

イスラーム国」関連の報道も、日本から対象が遠ざかるにつれてぱたりととまったように見える。エジプトのコプト教徒の人たちの殺害は相当にショックだったのに。でもそんな報道変化にも気づかないくらいシャルリーエブド事件以降の一連の出来事は自分のなかで混乱と衝撃があって、Islamic State関連のニュースにさほど目をとめていなかったこれまでの無知を思い、中東の歴史を知るための数冊を立て続けに読んでみた。
中でも自分の混乱に区切りをつけてくれたのが酒井啓子さんの『〈中東〉の考え方』。わかりにくい中東情勢、中東の歴史を、中東に生きる人々を中心におきながら紐解いてくれるので、アメリカやイギリスがいかに中東情勢に深く影響を及ぼしてきたのか、18世紀以降の植民地政策に遡り、中東各国のパワーバランスの変化とともにストーリーとしてよくわかる。石油がいかに中東情勢にからみ、冷戦時代の欧米の覇権競争が中東を舞台に具現化していたのかもよくわかる。アメリカの石油供給の安定化を担い、1950年代のアラブ民族主義政権の各国における樹立のなか、その防波堤とならんとしたサウジアラビアという国の特異性もよくわかる。「イスラームの盟主としてのサウジアラビア」という姿勢を打ち立ててゆくのだ。ビンラディンがサウジ出身であることも、これらと決して無縁ではない。

時期としては2009年刊行当初、まさにメディア情報戦が鍵をにぎる今現在に近い地点まで語られるが、それにしても読んでみて、しょせん911の衝撃も、それ以後のイラク戦争の流れも(アメリカで最も長い戦争になるという)、やはり自分にとってはさほどリアリティーを持てない出来事だったのだと痛切に感じる。欧米諸国が日頃接しているであろう中東ニュース、あるいは中東への距離感と日本のそれは全く異なり、位相を異にしていたのだ。平和ボケといえばそれまでだけれども、改めてその遠さに驚き、欧米並みのテロ対策のあれこれを備えようという動きがにわかに活発化した今だからこそ、冷静に日本の、日本ならではの関与の仕方(距離を置くということ含め)を考えるうえで中東中心に世界がどう見えてきたのか、知ることが大切だと感じた。イラク戦争は別として、マイナスに関与した歴史を持たない日本が泥沼に足を踏み入れていく理由はやはり見出せない。

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

続けてこちらの本も読んだ。
本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る